すべてが始まる夜に
夢中になって写真を撮ったりメモを取ったりしていたら、いつの間にか時間は12時半を過ぎていた。慌てて部長と一緒に如月さんのところに戻り、挨拶をする。

「如月さん、すみません。もう12時半を過ぎてしまっていたとは……。長い時間お邪魔しまして申し訳ございませんでした」

部長が頭を下げるのと同時に、私も一緒に頭を下げる。

「私は全然構わないのよ。松永くんたちはこれからどうするの? 福岡の支店に行くの?」

僕たちはそうですね──といいながら、部長が腕時計に目を向ける。

「先に荷物を置きたいのですがホテルのチェックインにはまだ早いので、食事をしてからホテルにチェックインをして会社に顔出すことにします」

「あらそう。じゃあ一緒に食事をしましょう。いいでしょ?」

えっ? と部長と2人で顔を見合わせる。

「せっかく東京から松永くんが来てくれたんだもの。お友達がこの近くで和食のお店をやっててね。鯛茶はどうからしら? 久しぶりでしょ。ちょっと電話してみるから」

如月さんは鞄から携帯を取り出すと、私たちの返事も聞かず電話をかけ始めた。

「部長、お昼ごはんって……」

「この様子だと一緒に食べる羽目になりそうだな」

部長が苦笑いを浮かべながら私を見る。

「見ての通り、如月さんは世話好きなおばちゃんなんだ。あの如月さんの人柄を慕って、みんなこのギャラリーに集まってきてたからな。ここは素直に従ってご馳走になることにしよう。鯛茶、かなり旨いぞ」

「たいちゃ?」

「そっか、白石は知らないよな。鯛茶とは鯛茶漬けのことなんだ」

「お茶漬けですか? お魚の鯛の?」

「ああ、福岡に来たら一度食べてみる価値はあると思うぞ」

如月さんを見ると、「これから10分くらいで行くから、鯛茶3つよろしくね」と、楽しそうに電話口の相手とお話をしている。

如月さん、本当に部長のことが好きで、部長に会えたことが嬉しかったんだろうな。
部長の言う通りここは素直にご馳走になって、東京に帰ってからお礼のお手紙と美味しいお菓子でも送っておくことにしよう。

部長と私は如月さんの運転する車で、お友達が経営しているという和食のお店に連れていってもらうことになった。
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