すべてが始まる夜に
「白石、何飲む? 最初はビールでいいか?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ、生と一緒に先にいくつか注文するぞ」

部長は、注文いいですか? とお兄さんを呼ぶと、「生2つと牛すじ煮込み豆腐と、おでんは……大根と玉子と厚揚げとロールキャベツ、あと明太子入り玉子焼きをお願いします」と、注文をした。

はいよ──と威勢のいいお兄さんの声が響き、すぐに生ビール2つが目の前に置かれた。

「じゃあ、お疲れ」
「お疲れさまです」

カチンと部長とグラスを合わせ、ビールを口に運ぶ。
屋台の雰囲気と熱気でビールがいつもよりも美味しく感じ、私は3分の1くらいをゴクゴクと喉に流し込んだ。

「あー、美味しい。今日のビールっていつもよりもなんだかすごく美味しい!」

コトンとグラスをテーブルの上に置く。
するとお兄さんが「嬉しいこと言ってくれるねぇ、はい、これおでんと牛すじ煮込み豆腐ね」とテーブルの上に2つのお皿を置いてくれた。

「わぁ、美味しそう!」

熱々の湯気が立つ料理を見ながらそう呟くと、「美味しそうじゃなくて、うちのメニューはほんとに美味しいよ!」とまたまたお兄さんから声が飛んでくる。
お店の人とこんな掛け合いをしながら食べるなんて初めての経験で楽しくてたまらない。

思わず微笑み返しながら、「はーい。じゃあ、いただきまーす」と箸を手に取り、大根を割って口に入れた。

「ほんとだー。出汁がしみしみで美味しい!」
「でしょ。うちじゃ美味しいものしか出さないからねー」

少し離れたところで串を焼いているというのに、お兄さんがまた私の声を拾って言葉を返してくれる。

ふふふっと口元に手を当てながら、「部長、ほんとに美味しいですよ」と横に顔を向けると、部長は静かにビールを飲みながらじっと私たちのやり取りを見ていたようだった。
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