すべてが始まる夜に
満たされた気持ち
部長と新しい約束ごとを取り決めてからは、私は週末を部長の部屋で過ごし、2人のときは “悠くん” と呼び、レッスンも順調に進んでいった。

金曜の夜は簡単な夜ごはんを作ったり、美味しそうなお惣菜を買って帰って一緒に食べたりして、その後は部長にレッスンを受け、男の人と一緒のベッドで眠るということも最初は緊張したけれど、少しずつ慣れていった。

土曜の朝は部長が淹れてくれたコーヒーと前日に買ってきたパンで朝食を取り、そのあとは買い物に出掛けたり、近所を散歩したりして一緒に過ごした。夜は部長の部屋でごはんを作り、一緒にお風呂に入るというハードルはまだ高くて未だにできないままだったけれど、部長が言っていた通り、レッスンの回数を重ねるごとに痛みも和らいでいき、少しずつ気持ちいいと感じるようになっていた。
そして私の中でも少し変化があり、こうして部長と過ごす週末の時間が楽しみになり、いつの間にか一緒にいることが心地よく感じていた。

12月も後半に近づいた土曜の朝、カーテン越しに差し込んでくる淡い光に包まれながら、いつものように部長の淹れてくれたコーヒーを飲んでいると、「来週なんだけどさ」と柔らかい瞳を向けた部長が、手に持っていたマグカップをテーブルの上に置いた。

「茉里、来週の土日は一緒に旅行に出かけようと思うんだ。いつも俺たちこの部屋ばかりで過ごしているだろ? たまには別の場所で過ごすのもいいかと思ってな」

「それって前に言われてた旅行のレッスンってことですか?」

私がそう尋ねると、部長は少し顔を曇らせて小さく息を吐いた。

「まだ、レッスンか……」

「まだ、レッスン?」

「あ、いや、恋人同士だとクリスマスに彼氏と旅行くらい行くだろ?」

「クリスマス? 来週の土日はクリスマスなんだ」

壁に掛けてあるカレンダーを確認すると、来週の土曜日がクリスマスイブで、日曜日はクリスマスだ。
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