すべてが始まる夜に
突然女性扱いされたことに、部長の男性としての振る舞いを見た気がして、ドクンと心臓が反応し戸惑ってしまう。

部長はいつも女性に対してこんな配慮をしているのだろうか。
イケメンってすごいよね。
こんなことが自然とできるんだもん。
私なんてこんなことされたの、自分のお父さんくらいなのにな──。

まだ私が幼い頃、父親はいつも私を車から守るために歩道側を歩かせていた。
それは子供を守るためであって、決して女性だからというわけではない。
イケメンで仕事が出来てこんな風に女性に優しくて見た感じからは欠点なんてほとんど見つからないのに、なのにセックスが下手って、やっぱり神様はみんなを平等にしてくれてるのかな。

ふふっと笑っていると、「どうした? 思い出し笑いなんかして。なんかおかしいことでもあったのか?」とふいに視線を向けられた。

「い、いえ、別に……。あ、あの、やっぱり夜は風が冷たく感じますね」

当たり障りのない無難な天気の会話にすり替えながら、愛想笑いなんかを浮かべてみる。

「もう10月だからな。あと2ヶ月で今年も終わりだしな」
「早いですね。ついこの間、部長が東京に来られたと思ったのにもう半年以上たってるんですもんね」
「だな。年取るはずだよな」

地下鉄の入り口まで来て、部長の後ろに続いて階段を下りていく。
道を歩いているときから感じていたけれど、今日は少し酔っぱらってしまっているのか足元に力が入らない。
ビールをジョッキで2杯しか飲んでないのにな。
あのくらいなら酔っぱらうことなんてないのに。

落ちないように慎重に下りていると、「どうしたんだ? 調子が悪いのか?」と部長が私の方へ振り返った。
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