すべてが始まる夜に
「1っていうことは、部長は広い1LDKの部屋なんですね」

「んっ? どういうことだ?」

「ここって、1フロアに5部屋しかなくて、両端の部屋が60平米くらいの広い部屋なんです。そして両端に挟まれた3つの部屋が25平米しかない1Kの部屋なんです」

「へぇ、そうなのか。俺は会社からも駅からも近くてある程度広さがあるマンションがいいって条件を出したらここを紹介されたんだ。確かに1LDKだが通常より広いかもしれないな」

「そうですよね。その分家賃も高いはずです。まあ部長だから高い家賃でも大丈夫でしょうけど。私の部屋なんてめちゃくちゃ狭いですよ」

「そうなのか?」

「はい。まあひとりなのでこのくらいでも十分ですけど、もう少し広かったらよかったなと。でも東京では家賃がとても高いから贅沢言えませんよね」

ポストの中に郵便物がないのを確認して、鍵で自動ドアを開け、オートロックを解除してエレベーターのボタンを押す。1階に止まっていたのかすぐにドアが開き、部長が先にエレベーターの中に入って3階と10階のボタンを押した。

3階なのであっという間にエレベーターが到着してドアが開いた。
エレベーターから降りて部長の方へ振り返る。

「部長、今日は本当にありがとうございました」
「ああ、じゃあまた月曜日な」

部長がにこりと微笑んで右手を上げる。
なぜかほんの少し「寂しい」という感情が湧き上がってきたことに首を傾げながら、私はおやすみなさいと微笑み返してその場で頭を下げたまま部長を見送った。
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