すべてが始まる夜に
「今日は不思議な一日でした。いろいろありましたけど部長と話せて楽しかったです」

「俺もあんなところを見られてしまったが、まあ見られたのが白石でよかったよ。出汁巻き玉子も蕎麦も美味しかったしな」

きりっとしたイケメンの顔が、ニコッと甘い笑顔に変わる。物語に出てくる王子様のようだ。
ほんとに整った顔してるな。
恋愛感情云々ではなく、できることなら一度じっくりとこの綺麗な顔のパーツをひとつひとつ眺めてみたい。
いったいどういう造りになっているんだろう。

「あっ、部長、私ここのマンションなんです。送ってくださってありがとうございました。部長も気をつけて帰ってくださいね」

マンションの前に到着して、私はニコッと微笑みながら再び頭を下げた。

頭を上げて部長の顔を見ると「うそだろ……」と、とても驚いた顔をしている。

あの、部長? と首を傾げると、俺も実はここのマンションなんだ──と部長がぼそりと呟いた。

「うそっ」

両手で口元を押さえて部長の顔を見つめる。

「ほんとに、ほんとに部長もここのマンションなんですか?」
「ああ。10階に住んでる」
「10階? 私は3階です。っていうか、ほんとにびっくりです」
「俺も信じられないよ。今までエレベーターでも会ったこともないだろ」
「はい。ほんとに。──こんなことってあるんですね」
「そうだな」

一緒にマンションのエントランスに入り、2人ともが郵便ポストを確認する。

「白石は303号室か。俺は1001号室だ」

私の郵便ポストの部屋番号を見ながら部長が自分のポストを指さした。
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