すべてが始まる夜に
「茉里は……俺と一緒に暮らすの嫌か?」
少し不安そうに見つめる部長に、私は無意識に首を横に振っていた。
「嫌じゃない……。すごくうれしい。ほんとにすごくうれしいんだけど……」
自分の気持ちを伝えたら、 “じゃあ、一緒に住むのはもう少しあとにしよう” とか、 “結婚っていうのはまだ早すぎたな” とか言われてしまうのだろうか。そう言われてしまうのが怖くて口籠ってしまう。
「不安があるなら言ってくれるか? 一緒に2人で考えてひとつずつ取り除いていこう」
優しい眼差しを向けてくれる部長に、私は小さく頷くと、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。
「悠くんと一緒に暮らすのも、将来、悠くんと結婚できるのもほんとにうれしいの……。でもこんなに早く決めてもいいのかなって……。私たち昨日付き合い始めたばかりだし……。だ、だけど、わたし、悠くんと離れたくないし、悠くんのそばにいたい……」
言っていることはめちゃくちゃだと自分でもわかっているけれど、今の素直な気持ちだ。
部長はどう思うのだろうか……。
部長はテーブルに置いてあったマグカップを手に取ると、コーヒーをひと口飲み、再びカップをテーブルの上に置いた。
「俺な、4月に本社に来ただろ? 4月からずっと茉里のことを見てきた。その頃はまだ上司と部下としてな。仕事は丁寧にきちんとするし、性格は真面目だし、後輩の橋本や他の社員の面倒見もいいし、同年代の女性とは違ってとても落ち着いてるなっていうのが俺の第一印象だった。部内が円滑に回っているのも茉里の存在が大きかったし、本社に来て勝手がわからなかった俺も茉里の存在に助けられていた」
初めて聞く部長の言葉に、私のことをそんな風に思っていてくれたんだと感動しつつ、私も部長が本社に赴任してきたときのことを思い出していた。
最初はこの整った顔立ちのイケメン具合に圧倒され、完璧で近寄りがたい人だなっていうのが私の第一印象だった。だけどこの見た目の雰囲気とは違い、仕事は早くて丁寧だったし、毎日朝早くから夜遅くまで仕事をしている姿を見たり、仕事でわからないことがあると優しく的確なアドバイスをくれたり、相談にのってくれたりと、最初は部長の前に立つだけで緊張していたのに、近寄りがたかった印象が徐々に溶けていった。
少し不安そうに見つめる部長に、私は無意識に首を横に振っていた。
「嫌じゃない……。すごくうれしい。ほんとにすごくうれしいんだけど……」
自分の気持ちを伝えたら、 “じゃあ、一緒に住むのはもう少しあとにしよう” とか、 “結婚っていうのはまだ早すぎたな” とか言われてしまうのだろうか。そう言われてしまうのが怖くて口籠ってしまう。
「不安があるなら言ってくれるか? 一緒に2人で考えてひとつずつ取り除いていこう」
優しい眼差しを向けてくれる部長に、私は小さく頷くと、気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。
「悠くんと一緒に暮らすのも、将来、悠くんと結婚できるのもほんとにうれしいの……。でもこんなに早く決めてもいいのかなって……。私たち昨日付き合い始めたばかりだし……。だ、だけど、わたし、悠くんと離れたくないし、悠くんのそばにいたい……」
言っていることはめちゃくちゃだと自分でもわかっているけれど、今の素直な気持ちだ。
部長はどう思うのだろうか……。
部長はテーブルに置いてあったマグカップを手に取ると、コーヒーをひと口飲み、再びカップをテーブルの上に置いた。
「俺な、4月に本社に来ただろ? 4月からずっと茉里のことを見てきた。その頃はまだ上司と部下としてな。仕事は丁寧にきちんとするし、性格は真面目だし、後輩の橋本や他の社員の面倒見もいいし、同年代の女性とは違ってとても落ち着いてるなっていうのが俺の第一印象だった。部内が円滑に回っているのも茉里の存在が大きかったし、本社に来て勝手がわからなかった俺も茉里の存在に助けられていた」
初めて聞く部長の言葉に、私のことをそんな風に思っていてくれたんだと感動しつつ、私も部長が本社に赴任してきたときのことを思い出していた。
最初はこの整った顔立ちのイケメン具合に圧倒され、完璧で近寄りがたい人だなっていうのが私の第一印象だった。だけどこの見た目の雰囲気とは違い、仕事は早くて丁寧だったし、毎日朝早くから夜遅くまで仕事をしている姿を見たり、仕事でわからないことがあると優しく的確なアドバイスをくれたり、相談にのってくれたりと、最初は部長の前に立つだけで緊張していたのに、近寄りがたかった印象が徐々に溶けていった。