すべてが始まる夜に
「やっぱりこの色にしてよかった。悠くんによく似合ってる」

「ほんとか?」

「うん、すごくかっこいい」

「ありがとな。で、茉里はその服を着て会社に行くのか?」

部長は私のタートルネックの首元をつまんで、チラッと中を見た。

「だって、赤いのが見えちゃうじゃん……。悠くん、すごくいっぱいつけてるし……」

「別にいいだろ。見せたって減るもんじゃあるまいし」

「やっぱり恥ずかしいよ。昨日あんなことしたってバレちゃうから……」

「まあ、目の前の男が朝から茉里のよからぬ姿を想像するのも腹立つしな。仕方がない、我慢するか」

目の前の男って?
吉村くんのこと……じゃないよね?

部長は口元で弧を描いてコーヒーを飲むと、腕時計を確認した。

「茉里、俺はこれから出るけど、茉里はいつも通りの時間でいいから気をつけて会社に来いよ」

「うん、わかった」

鞄を持って玄関に向かう部長の後ろについて、私も一緒に玄関に向かう。

「じゃあ、あとで会社でな。いってきます」

「いってらっしゃい」

ドアの前で手を振ると、部長は甘い笑顔で唇にキスをしてエレベーターホールへ歩いていった。
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