すべてが始まる夜に
「会社に行く前にこんな風に茉里に触れることができるなんて夢みたいだな。今日も1日仕事が頑張れそうだ」

「ほんと?」

「ああ。なあ茉里、さっきのもう一回言ってくれないか?」

「さっきの?」

「朝起きて一番最初にってやつ」

「朝起きて一番最初……? 悠くん、おはよう!」

あらためて言うと恥ずかしくなり、私はそのまま部長の首に手をまわして抱きついた。

「いや、そうじゃなくて、おはようもうれしいんだが……、俺の顔が見れたらってやつが聞きたかったんだけど……。あー、このままこうしてるとまたしたくなってくる……。茉里、ごめん。俺、シャワー浴びてくる」

部長はそう言って腕を解き、私のおでこにちゅっとキスをすると、立ち上がって浴室へと向かった。

部長がシャワーを浴びている間にコーヒーの準備だけして、私も顔を洗ってメイクを始める。ひと通り準備が終わったころ、部長が浴室から出てきた。
少し伸びていた髭も剃られ、先ほどの甘々な顔からきりっとした顔に変わっている。

「おっ、コーヒー淹れてくれたのか?」

「うん。悠くんっていつも朝ごはんは何を食べてるの? ごはん? それともパン?」

「平日の朝は何も食べないな。会社行ってコーヒー飲むくらいかな」

「そうなんだ……」

「ああ、だから朝ごはんは気にしなくていいぞ。先に着替えてくるな」

部長はそう言うと寝室の中に入っていき、スーツ姿になって戻ってきた。
首元には私がプレゼントした淡いピンク色のネクタイが締められている。

「あっ、ネクタイしてくれたんだ」

「当たり前だろ。茉里が俺に選んでくれたネクタイなんだ。これから毎日このネクタイでもいいよ」

リップサービスだとは思うけれど、そんなことを言われるとうれしくて顔がニヤけてしまう。
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