すべてが始まる夜に
「あー、せっかく水島部長の近くに行こうと思っていたのに、あれじゃ行けやしない……」

葉子が残念そうな顔をしてコップに注がれたビールを勢いよく飲み干した。

「葉子さん、今日は仕方ないですよ。あれも社内営業ですからね」

そう言いながら若菜ちゃんが空になった葉子のグラスにビールを注ぐ。

「今日は諦めるか……。その代わり茉里の話をじっくり聞くことにしよう!」

「えっ? なんでわたし……?」

「当たり前でしょ。そろそろ彼氏の話を聞かせてくれたっていいじゃん」

葉子と一緒に若菜ちゃんまでもが私に期待するような視線を送ってくる。

「そ、そんなたいした話なんて何もないよ……」

「無いことないでしょ。あんな独占欲掃除機彼氏だよ」

「葉子さん、なんですか? その独占欲掃除機彼氏って……?」

すかさず若菜ちゃんがツッコミを入れる。
私も何のことだかさっぱりわからない。
若菜ちゃんと一緒に葉子を見ると、葉子はテーブルに置いてあったフルーツのお皿の中から苺を取ってパクッと口に入れて、私たちを交互に見た。

「それはあれよ。独占欲が強くてキスマークつけまくりの彼氏じゃん。キスマーク彼氏なんて言えないから考えたわけよ。でね、同じ吸引力から繋げて、掃除機になったってわけ」

「なんですか、その無理やり感……」

そう言いながらも、若菜ちゃんもぷぷっと吹き出している。
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