すべてが始まる夜に
「何でそんなこと勝手に決めたんだ? もしかして、俺たちが付き合っているからか?」

部長の言葉に、そう──と小さく頷く。

「それと仕事は関係ないだろ?」

「関係あるよ。だって、ちゃんと仕事をしていても、周りの人たちはやっぱりそういう目で見ちゃうでしょ」

「そんなの気にすることないだろ。遊びじゃなくて俺たちはきちんと仕事してるんだから」

「そうかもしれないけど、こういうことは変に疑われないようにしておいた方がいいと思うの。前泊もして当日も宿泊して2泊3日の出張だったら、絶対に面白おかしく言ってくる人がいると思うから。そんなことで悠くんに迷惑かけたくない」

頑なに首を横に振っていると、「言いたいやつには言わせておけばいいんだ」と、そんなことは全く気にしないと言わんばかりの言葉が返ってきた。

言いたいやつには言わせておけばいいと言われても、今回は私もこれだけは絶対に譲れない。
もし変な噂がたって、部長に迷惑をかけることだけは何があっても避けたいのだ。

部長はこれからエムズコーポレーションの未来を担っていく人で、もしかしたら社長になるかもしれない人だ。
会社にとって重要な人物なのに、私のせいで「女性を連れて出張に行った」とか、「公私混同している」なんてことを言われたら申し訳ない。
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