すべてが始まる夜に
「ほんとに、ほんとに部長もここのマンションなんですか?」

「ああ。10階に住んでる」

「10階? 私は3階です。っていうか、ほんとにびっくりです」

「俺も信じられないよ。今までエレベーターでも会ったこともないだろ」

「はい。ほんとに。──こんなことってあるんですね」

一緒にマンションのエントランスに入り、お互いに郵便ポストを確認する。
白石は303号室らしい。
彼女の話によると、このマンションは俺が住んでいる端の部屋が広い1LDKで、彼女が住んでいる真ん中の部屋は狭い1Kの部屋だということだった。



3階で彼女と別れ、こうして部屋に戻ってきたのだけれど──。

それにしてもあいつ、おとなしい顔して大胆なこと言いやがったよな。

お笑い芸人たちのコントが流れるテレビの画像を尻目に、ミネラルウォーターのキャップを捻りながら夕方からの出来事を思い返し、ふっと笑みを零す。
あの衝撃的な発言が頭から離れない。
麗香に言われたことでダメージを受けていたはずなのに、酒の効果なのかそれともあの発言のせいなのか、そんなことはどうでもよくなってきた。
このマンションの下に彼女が住んでいるのかと思うと、なぜか妙な気持ちになってくる。
これはいったいどういう感情なのだろうか──。

そんなことを考えているうちに、俺はいろんな疲れからかいつの間にか眠りに落ちていた。
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