すべてが始まる夜に
そして次の日。
朝会社に出社すると、また部長はいつもの定位置に座っていなかった。気になりながらも「おはよう」と既に仕事を始めている吉村くんに言うと、「松永部長、今日から九州に出張だって。部員全員にメールがきてるぞ」と返ってきた。

「えっ? 松永部長出張なの? どうして?」
「それは知らないけど、メールには急遽九州に出張になったって書いてあったぞ。今週いっぱいらしい」
「今週いっぱい? 今週は来ないってこと?」
「今週いっぱいってことはそうじゃないか」

そっか、と言いながら席に座りパソコンを開く。
吉村くんが言った通り、メールには急遽九州に出張になり出社は来週になることと何かあればメールで連絡してほしいと書いてあった。

メールの文面を目で追いながら、松永部長が今週いないということがわかり、少し寂しいようなほっとしたような気持ちに包まれる。

今週は松永部長いないのか……。
早く謝りたかったけど、仕方ないよね。
部長がいない間にどうやって謝るかを考えておこう。

顔を合わせなくていいということで気持ちに余裕ができたせいか、今日は昨日の分まで仕事も捗りそうだ。そんな風に思っているとタイミングよく隣の開発企画部から福岡の3店舗目の詳細資料がもらえ、私は部長が出張の間、自分なりに考えたカフェのイメージを形にしようと、新店舗のプレゼン資料作りに没頭していた。

そしてあっという間に金曜日になり、一週間部長の姿を見なかったことですっかり安心しきっていた私は、定時で仕事を終えたあと、とても軽い足取りで電車に乗り、食材を買うためにスーパーに向かった。
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