すべてが始まる夜に
エレベーターでもう一度10階に上がり、1001と書かれた部長の部屋のドアの前に立つ。
そのまま気持ちを落ち着かせるように胸に手を当てて大きく息を吸い込み、ゆっくりと息を吐いた。

「何でこんなもの持ってきたんだ?」と聞かれたときのために、部長とのやりとりを頭の中でシミュレーションする。

迷惑だとは思ったのですが、風邪薬があるか心配だったので持ってきました。解熱剤と冷却枕です。もしよかったらこれを使ってください──。

薬と冷却枕を持ってきた理由を呪文のように何度も何度も繰り返す。そして、ちゃんと受け取ってもらえますようにと願いながら、私はインターホンを押した。

ピンポーンと呼び出し音が鳴ると同時に、緊張を増長させるように心臓がドクンドクンと活発に動き始める。部長にどんな反応をされるのかと思うと、不安で仕方がない。

あー、緊張する……。

冷却枕を持つ手が冷たくて、左右に持ち替えながらドアの前でしばらく待つものの、中からは何も応答がなかった。

もしかして、カメラに映らないから開けてくれないのかな?

1階のエントランスで部屋番号を押してインターホンを鳴らすと、そこにはカメラが付いているので誰が来たのかモニターで確認できるけれど、部屋の前のインターホンだとカメラが付いていないのでモニターでは誰が来たのかは確認できない。

もしかして何も映らないから悪戯だと思われてる?
ここで鳴らしているのがわからないのかな?
ドアをノックしたらここで鳴らしていることに気づいてくれるかな?

そう思い、もう一度インターホンを鳴らした後、今度はドアも一緒にノックしてみた。
だけどドアをノックしてみても先ほどと同様に何も反応がなかった。
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