すべてが始まる夜に
大きな布団と毛布を抱えて10階の部長の部屋の前に行く。さっき一度玄関のドアを開けているので、今度は緊張することなく静かにドアを開けた。

玄関の上り口に一旦持ってきた掛け布団と毛布を置き、靴を脱いで毛布だけを持って音を立てないようにリビングの中へ入って行く。部長は寒いのか横を向いて丸まって眠っていた。

「あっ、多分寒いんだ……。部長、すぐ毛布かけますね」

寒そうに身体を丸めて眠っている部長に急いで手に持っていた毛布をかける。そして玄関に置いてきた掛け布団も取りに行き、その上にそっとかけた。
少し暖かくなってきたのか、丸まっていた身体が次第に伸び始める。

「よかった。暖かくなったのかな。掛け布団も持ってきておいてよかった」

ぐったりとして寝てはいるけれど、最初に部長をこの部屋で見たときの表情よりかはいくらか軽減されている。

「少し薬が効いてきたのかな。そうだ、おでこも冷やしておこっと」

紙袋の中からハンドタオルを取り出してキッチンのシンクで濡らして軽く絞る。そのまま部長のおでこの上にのせた。

「これで熱が下がるといいけど……。それにしても部長の睫毛、ながっ!」

薬のおかげかかなり深い眠りに入っているので、遠慮なく近くでじっくりと顔を見ることができる。
やっぱりイケメンは眠っていてもイケメンだ。
いや、イケメンという流行的な若い美男子を指す言葉ではなく、どの世代も認める正統派ハンサムと言った方がいいのだろうか。
バランスの良い形の眉に、長くて濃い睫毛。鼻は高く鼻筋も通った彫りの深い端正な顔立ち。
本当に美しいという言葉がぴったりな顔だ。
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