すべてが始まる夜に
「あっ、すみません。そうですよね、おうどんが伸びちゃいますよね。部長、片手鍋の方がおうどんです。そして土鍋の方が雑炊です。雑炊は夜にでも食べてください。どうせ今おうどん食べても、夜はカップ麺にするつもりですよね?」

表情を窺いながら微笑むと、「えっ? うどんと雑炊?」と驚きながら部長は鍋の蓋を開けた。

「ほんとだ。うどんと雑炊だ。白石、お前のは? これを半分ずつするってことか?」

さっきから部長が何を言っているのか理解ができなかったけれど、テーブルに置かれた2つのコップと箸を見て、私はようやく理解した。

「部長、それは両方とも部長のです。私のは作ってませんし、もう帰りますので」

そう言ってテーブルに置いてあった私の携帯を手に取る。

「なんだ、白石は食べないのか。なんかわざわざ作ってもらって本当に悪かったな」

「そんなことないです。おうどんも雑炊も簡単なのですぐできますから。それより部長、昨日はあんなに熱が出てたんですから、ちゃんと食べて薬飲んで今日と明日はゆっくり身体を休めてくださいね」

「ああ、ありがとな」

柔らかく微笑みながらゆっくりと頷く。
会社で仕事をしている部長は男らしくてかっこいいのに、今日の部長はなぜか可愛く感じてしまう。

私は口元で笑顔を作ると、じゃあ失礼しますと言って自分の部屋へと戻って行った。
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