すべてが始まる夜に
「いや、どっちが俺のうどんかなと思って。それよりお前、今の時間でわざわざ化粧してきたのか?」

不意に尋ねられ、あ、はいと頷く。

「さっきお家に帰って鏡を見たら、お化粧が取れ取れだったので……。あんなすっぴんにほぼ近い顔で部長とお話してたとは思わなくて……。それにお風呂にも入ってなかったし。シャワーを浴びたついでにお化粧しました」

「そうか。でも化粧してもそんな変わらないよな」

「ちょっ、ちょっとそれはどういう意味ですか? 部長!」

どうせ私は化粧してもしなくても変わり映えの無い顔です!と頬を膨らませていると、「違う、そういう意味で言ったんじゃないんだ」と部長が両手を振り始めた。

「化粧しなくても十分可愛いってことだよ。さっき可愛い顔して寝てたぞ。寝顔が可愛いって最高じゃないか」

「ねっ、寝顔って……。もしかして部長、私が寝てた時、もう起きてたんですか?」

「ああ。何で白石が俺の部屋で寝てるんだ?と思って見てた」

うそでしょ。
いつから起きて見てたの?

「そっ、そしたらどうして起こしてくれなかったんですか!」

「気持ちよさそうに寝ているやつを起こすなんて、そんな人間は非道だろ」

「そういう問題じゃないです!」

全く、寝顔を見られるなんて恥ずかしくて堪ったもんじゃない。
真っ赤になって頬に手を当てていると、「せっかく作ったうどんが伸びてしまいそうだから、そろそろ食べてもいいか?」と部長がキッチンからコップと箸を2つ取り出してテーブルの上に置いた。
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