すべてが始まる夜に
「白石、謝らなくていいから顔をあげて」

顔を上げて俺の顔を見た白石は、不安そうな顔をしながら俺を見つめている。

「いろいろ悪かったな。白石のおかげで酷くならずに済んだみたいだ。冷却枕もこのタオルもありがとな。冷やしてくれたんだろ。それに……、おそらくこの布団と毛布もだよな」

「は、はい……。あっ、ちゃんと布団のカバーは取り替えてきましたので一応綺麗です」

こういうところが真面目なのか、気遣いのできる優しい性格なのか、それとも天然なのか。今まで俺が付き合ってきた女性なら、俺を心配するふりをしながら自分がどれだけ世話をしたかということをアピールしてくるだろうに、白石からは全く予想もできない答えが返ってきた。

わざわざ布団カバーまで替えてくれたのか……。
そんなことまでしてもらってますます申し訳ないと感じてしまう。

逆に俺が使った布団だから気持ち悪いだろ、汗かいたし新しい布団を買って返そうか──というと、自分が勝手にしたことだから気にしないでくださいと返ってきた。そんなことより病院に行った方がいいのではないかと促される。

確かに病院には行くべきなのかもしれないが、ありがたいことに白石のおかげで身体の怠さはまだ残っているものの昨日ほどの倦怠感はない。おでこと頬に手を当てながら自分の体温を確認していると、白石が熱を測ってみてくださいと体温計を差し出してきた。

体温計まで用意してくれていたことに感心しながら体温計を脇に挟む。ピピッと電子音が鳴り体温計を取り出すと、37.6度と表示されていた。窺うように俺の顔を見ている白石に体温計の表示を見せると安心したように笑顔になった。

「よかった。昨日よりは熱は下がってきてますね。測ってないから正確な数字は分からないけれど、昨日はめちゃくちゃ熱かったですもん。でもまだ37.6度ってことは……、今は一時的に下がっているだけでまた上がるかもしれませんね」

「そうだな。また上がるかもしれないが今日明日寝てたら治るんじゃないかな」

37.6度なら病院に行かなくても土日でおとなしく寝ておけば熱も下がるだろう。そんな俺の心の内を読み取ったのか、「じゃあ、何か少し食べられてから薬飲んでくださいね」と笑顔を向けたあと、あっ!と叫んだ。
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