極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
「それは重々承知の上だ」
「ちゃんと告白すればいいじゃない。紗世ちゃんならちゃんと考えてくれるでしょう?」
「……今気持ちを伝えても、混乱させるだけだろう。負担になることはしたくない」
「ああ……まあ、それはそうでしょうね……」
 妊娠だけでも大変なのに、相手の男が頼れないともなれば、男そのものへの不信感が高まっていてもおかしくない。今更妙なことが言えるはずもなく、彼女に伝えたかった言葉の数々は再び胸の奥に押し込めてあった。
 月村も女性としては頷ける話だったのか、急に歯切れが悪くなる。持っていた書類を筒状に丸めて、行き場のない感情をぶつけるように振り回し始めた。
 紗世は彼女のことを『仕事のできる大人の女性』か何かだと思って憧れているようだから、こんな姿を見たらひっくり返るだろう。今度見せてやってもいいかもしれない。
「でも紗世ちゃんの周りに、社長以上にいい男がいないから……妥協するしかないのよね。可哀想に……」
「可哀想とはなんだ。俺は紗世が、俺なしで生きていけなくなればいいと思ってるだけだが」
「それが駄目なのよ~! もう!」
「おい、叩くな。その書類、折ったらもう二度と使えないからな」
「……それに、貴方も貴方よ。社長」
 書類でできた筒で俺を叩いていた月村が、不意に真面目な声音で呟いた。
 無言で続きを促せば、彼女は少しだけ眉をひそめる。
「いいの? 彼女のお腹の中にいるのが他の人の子どもでも」
「……どういう意味だ?」
「貴方のことだし、紗世ちゃんだけを大事にして子どもは愛さない……なんてことはないでしょうね。でも、流石の貴方でも思うところぐらいあるでしょう」
 ――――辛くはないの?
 そう言った彼女の瞳には、紗世だけではなく俺に対する心配の色と、微かな憐憫の色が滲んでいた。
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