極上御曹司は懐妊秘書を娶りたい
「……見つかってよかった。ずっと探していたんだ」
「ずっと?」
「君がいなくなってから、ずっと。君が行きそうなところを毎日のように探してた」
 その言葉を聞いた途端に、呼吸も心拍も、何もかもが止まったような気がした。
 私が無理やり身を捩って振り返れば、こちらを真っ直ぐに見降ろしている景光さんと目が合う。その瞳には真摯さだけが滲んでいて、とても嘘をついているようには思えない。思えないけれど、その理由が分からなくて。
「どうして……?」
「どうしてって、そんなの……分かるだろう」
 ふっと柔く、蕩けるように微笑んだ景光さんが、まるで内緒話でもするように囁いた。
「君を愛しているからだ」
 紡がれた言葉が脳髄に染み渡ると同時に、再び時が止まる感覚。
 あいしている、――――愛している。景光さんが、私を?
 何度言葉を反芻してみても、夢じゃないかという思いが拭えない。景光さんと道を別ったあの日から凪いでいた心臓が、息を吹き返したかのように早鐘を打ち、暴れ回るのが分かった。
 これ以上ないほどの衝撃を受ける私を余所に、景光さんは甘さを多分に含んだ笑みを唇に浮かべてみせる。
「……やっぱり気付いてなかったのか。これほど分かりやすいアプローチもないと思っていたんだが」
「……うそ、」
「このタイミングで俺が嘘をつくと思うか?」
 思わない、思えるわけない。景光さんの誠実さは嫌と言うほど思い知らされているのだ。逃げ場を失った私が俯こうとすると、彼はそれすらも許さないとばかりに、私の頬に手を添えて顔を持ち上げる。夕日に照らされた景光さんのかんばせが、ひどく眩しかった。
「嘘じゃない。この子が誰の子であっても関係ない。君の子で、君が守りたいと思っているのなら、俺が父親になりたい。……そう思うぐらい、紗世のことが好きなんだ」
「っ……」
「それを、本当はずっと伝えたかった」
「景光、さん……」
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