若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「私もあと二十年若かったら、水商売も悪くなかったけどねぇ」
「あんたが水商売? いやぁ。どうだろうね」

 若い子が入ってきたというだけで、職場は大盛り上がりで、もてはやされ、居心地は悪くなかった。

「若いから、朝食抜きできたんだろ?」
「ほら、お菓子でも食べな」 
「コーヒーは飲める? 紅茶もあるよ?」 

 お菓子とコーヒーを出し、階段下の掃除用具置き場で、朝のティータイムが始まった。
 ロッカーから、なんでも出てくる。

「若い新人が来るってわかってたら、もっと若い子が好きそうなお菓子を用意したんだけどね」
「いえ、美味しいです。ありがとうございます」

 会話の隙間に、なんとか入り込み、お礼を言えた。
 私のお礼の言葉に、おばちゃん達はまた大騒ぎする。

「あ~。そういうの、いいから! ほら、途中で飴でも食べな」

 私の返事も待たずに、ぎゅむっとポケットに飴を入れてきた。

「す、すみません」
「そんな痩せてちゃだめよぉ」
「そうそう。もっと食べないとね!」

 梨沙は嫌がらせで、この仕事を選んだのは間違いないけれど、今はこの賑やかさに救われる気がした。
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