若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「なにを言っているの! あなた! 美桜が仕組んだ罠に違いないわ! 私が頭を下げるようにっ……」
「今までの仕打ちを考えたら、借金分を美桜がなんとかしてくれただけで、感謝しかない。祖父を見返そうと、自分を大きく見せた罰だ」

 父の言葉に継母は黙り込んだ。
 黙って成り行きを見守っていた瑞生さんが、口を開いた。

「沖重の家を助けたいという美桜の気持ちを踏みにじらないでもらいたい。俺は反対だった」

 瑞生さんは継母をにらむ。
 その目に継母は怯み、梨沙も父の後ろに逃げる。

「美桜が受け取るべき財産を隠し、使用人同然に扱ってきたわけだからな。俺はすべて奪い返し、思い知らせるべきだと、美桜に提案した」
「瑞生さん……。それはもういいんです」
「わかっている」
 
 八木沢さんも面白くなさそうだった。
 借金分を帳消しにせず、取り立てようとしていたのだから。
 八木沢さんが黒ヤギになって、そんなことをしたら、本物のヤクザである。
 もちろん、止めた。

「美桜がいいのなら、俺はそれでいい」
「甘いですね。徹底的に打ちのめすべきだと思うんですが」

 瑞生さんは引いたけれど、八木沢さんは納得いかないようだった。
 でも、瑞生さんの意向に従うのが八木沢さん。

「直真」
「わかってます。では、終わったようなので、帰りますか? ここにいても気分が悪くなるだけですからね」
 
 八木沢さんが終わりを告げると、梨沙が声を張り上げた。

「美桜がいなかったら、私はもっと幸せだったわ!」
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