若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「違います。私がここへ来たのは、沖重が持つ資産を瑞生さんに整理してもらい、借金の返済を終わらせたと、報告するために来ました」

 もちろん、この家には暮らせなくなる。
 でも、多額の借金を抱え、路頭に迷うよりはいいと思ったのだ。
 沖重が持っていた海外資産、別荘などを処分すれば、なんとかギリギリ足りる範囲だった。
 そして、もうひとつ。
 祖父が父の名義ではない名前で遺した財産があり、それもすべて売却した。
 私のために遺してくれたものと知ったけど、今となっては、この時のために使うのが正しい気がし、瑞生さんに頼んだ。
 
「おじい様は私に遺さないで、どうして美桜にだけ財産をっ……!」
「梨沙! やめなさい! 金がなくなり、会社を失い、知り合いは全員、手のひらを返したようにいなくなった。助けてくれたのは、美桜だけだったんだぞ!」

 祖父が遺した財産を私の物と知りながら、父が隠していたのを知った時は複雑な気持ちになったけれど、手をつけていなかっただけでも奇跡だった。
 その中には母が所有していた不動産もあったから、父は母に対する意地があったのだろう。
 私の母とは政略結婚で、父は母の実家には頼りたくないという気持ちが強かった。
 でも、結局、母のおかげで、助かり、父は憑き物が落ちたかのようになった。
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