若き社長は婚約者の姉を溺愛する
別荘
 秋になり、公園の桜の木の葉が色づき、赤や黄色の葉を頭上に降らせた。
 眠っている瑞生さんの髪に落ちた葉を指でそっとつまむ。
 起こさないよう落ち葉を取ったつもりだったのに、瑞生さんは目を開けて、私の顔を見て微笑んだ。

「起こしてしまいましたね」
「いい。美桜の指だとわかるから」

 秋の空に変わった空は、青みが薄くなっていた。
 その空を見上げ、瑞生さんは言った。
 
「美桜。別荘へ行かないか?」
「別荘ですか?」

 私が驚いたのは、瑞生さんが別荘を持っていることではなく、スケジュール的なものだった。

「そうだ。三日ほどなら休める……と思う」
「三日ですか? 私としては、瑞生さんにあまり無理をしてほしくないんですけど」

 八木沢さんに代わって、瑞生さんの秘書を任された私は、スケジュールをすべて把握している。
 スケジュール管理と来客の対応、パーティーへの出席、役員との食事、取引先からのお誘いと、瑞生さんの仕事は、次から次へと増え、尽きることがない。
 休む暇がないくらい忙しいと、私が一番知っている。
 でも、瑞生さんは公園で食べるお昼の休憩だけは欠かさなかった。
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