若き社長は婚約者の姉を溺愛する
 つまり、あのヤクザな黒ヤギさんは宮ノ入前の名残、白ヤギさんは宮ノ入に来てから、矯正されて生まれた人格。
 両方とも怖いことには変わりなかったけど、納得できた。
 宮ノ入家の複雑な事情を聞いたところで、車は会社の駐車場に着いた。

「会社に着きましたよ」
「ああ」
「ありがとうございます」

 私が頭を下げると、繁松さんは微笑んだ。
 外見は獰猛な熊のような人だけど、笑うと怖さは半減した。

「瑞生様をよろしくお願いします」
「は、はい」

 後を追って車から降りると、瑞生さんが手を差し出す。

「手を握るんですか? 社内で!?」
「腕を組むんだが」
「一緒ですっ!」
「社長室までだからいいだろう。堂々としていたほうが、怪しまれないぞ」

 私の手を無理矢理、腕にのせた。
 会社に入ると、来客から、社員まで、全員の視線が当たり前みたいに集まる。
 社長が入ってきたのだから、当り前だけど、エントランスには人が多い。

「お帰りなさいませ」

受付の二人が頭を下げる。
通り過ぎると、後からひそひそと声が聞こえた。

「社長の隣にいる人、婚約発表した女性じゃないわよ!」
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