若き社長は婚約者の姉を溺愛する
「ありがとうございます。でも、私のロッカーの鍵を開けないでください」
「鍵はかけました」
「知ってます! 閉まっていましたから!」

 どうやって鍵を開けて閉めたのか、聞きたくもなかったので、追及しなかった。
 でも、やっぱり危険な人には変わりない。
 朝から体力を消耗してしまう。
 八木沢さんが言ったように、瑞生さんは自分一人だと、なにもかもが無頓着だった。
 眠るのも休むのも後回し、食事は当然、時間があったら摂るスタイル。特に八木沢さんがいないと、口を出す人はほとんど皆無。
 だから、自然と私と瑞生さんが会うのは早朝になった。
 私も沖重の家の家事があるから、朝しか空いている時間はない。

「なるほど。パン屋のテイクアウトですか」
「最近、会社の近くにできたパン屋らしいです。朝だと、サンドイッチ類が充実してるんですよ」

 これは隣の席の木村さんから、教えてもらったパン屋だった。
 木村さんが朝食を食べ損ねたのか、隣で買ってきたサンドイッチをこっそり食べていたので、お店を聞いたのだ。
 早朝から開いていて、コーヒーもテイクアウトできるとか。
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