怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~

 隠岐先生が言うには、こういう話し合いの場面では当事者同士だと気持ちが昂り、余計にこじれて決着のつかない状態になることがあるらしい。

 それは彼が弁護士として様々なトラブルを見てきた経験からくるもので、そんなときは第三者が介入することで落ち着いて話し合いを進めることができるそうだ。

 だから私はあまり喋らずに、隠岐先生と母のやり取りを見守っていた。

 その結果、隠岐先生は母の説得に見事成功。しかも、あれほど隠岐先生に対して嫌悪感を丸出しにしていた母が、最終的には隠岐先生に好感を持つようになっていたのだから驚きだ。

 いったいどんな魔法を使ったのだろうと不思議に思ったものの、それは魔法でもなんでもなく隠岐先生の手腕なのだと気が付いた。

 優秀な弁護士である彼にとって説得や交渉は手慣れたものなのだろう。加えて隠岐先生の朗らかな性格と真っ直ぐな態度が、母の心を少しずつ解していったのかもしれない。

 母はすっかり隠岐先生を気に入ったようで、見合い相手の男性よりも安心して私を任せられるとまで言っていた。

 どうやら隠岐先生は初対面で母の心を掴んでしまったらしい。

< 29 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop