それは夕立とともに
「この間、翔琉に誘われてお宅の家に行ったんだけど。栞里ちゃんってアイドルのKenT(ケント)が好きなの?」

「なな、なんで??」

 彼女は目を大きく見開き、ハッとした表情で泡を食っていた。

「んだって、栞里ちゃんの部屋にポスターが貼ってあったから」

 やっぱりそうなんだと確信を得ると、胸の内がモヤモヤと曇った。

 栞里ちゃんの事が知りたいという欲に負け、勝手に部屋に入った俺が勿論悪い。

 けれど何の罰なのか、彼女は俺と同じ名前のアイドルが好きらしい。

 ーーくそっ、KenTめ!

「いや、だから。何で私の部屋見てるの?」

 ーーえ。なんで? なんでって。

「………えっと。開いてたから?」

 俺は調子よく笑い、首を傾げた。勿論嘘だ。

 彼女は勝手に部屋を見られた事に落胆するが、愚鈍な俺は更に墓穴を掘る事になる。

「ごめんね、栞里ちゃん。でも部屋綺麗だったよ、いい匂いしたし」

 言った直後、彼女は表情を固めて強い瞳で俺を見据えた。

「入ったの?」

 ーーわ。なんかこれ、ヤバそう……。

「………うーん。ちょこっとだけ?」
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