それは夕立とともに
 やはり嘘だ。大好きな栞里ちゃんの部屋で俺は思い切り深呼吸をし、ついでにKenTのポスターにガンを飛ばしてきた。

 ーーあ。

 甘い匂いが濃厚になってきた。俺はことさら嗅覚を働かせる。

「ああ、そうか。この匂いだ」

「何が?」

「栞里ちゃんの部屋の匂い。イコール、栞里ちゃんの匂い」

 彼女は唖然とし、俺を異質な目で見つめた。

 ーーあれ?

「もう、やだ! 匂いとか嗅がないでよっ」

「いや、むりむり、不可抗力。雨に濡れたあとの密室でしょ? 充満してるんだもん、栞里ちゃんの良い匂い」

「匂いとか言わないでよ、恥ずかしいっ」

 ーーえ……。良い匂いとか言われたら普通嬉しいもんだと思ってたけど、違うのか?

「ごめんごめん」

 栞里ちゃんはこれ以上ないほどに身を引き、限界まで俺と距離を開けようとしている。

 男である俺を警戒し、完全に引かれている。

 このままだと電話ボックスの壁に彼女が埋まる日も近いかもしれない。

 雨は勢いを緩めず、未だにガラス壁を叩きつけていた。

「つーか。ホント密室だよなぁ〜……雨、全然やまないし」

「……そうだね」

 彼女の声はすっかり沈み切っていた。
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