京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
「春菜ちゃんにお客様です」


ヒロミがそう言うや否や、ヒロミの体を押しのけて黒田が入ってきた。


「春菜、大丈夫か!?」


そう言えば黒田をカフェに置いてきてしまったと思い出す。


「大丈夫だよ」


春菜の言葉に黒田は大きく息を吐き出し「よかったぁ!」と、その場に座り込んだ。


本気で春菜のことを心配していたみたいだけれど、その優しさを遊園地のときに見せてほしかったものだ。


もう少し気の利いた別れ方になっていれば、翌日田島についていくこともなかったのに。


「黒田さん、あなたにもうひとつ聞きたいことがあったんです」


純一が体の向きを黒田へと向けて言った。


「俺に?」


「はい。あの時僕と道の駅で会ったのは偶然だったんですか?」


あの時とは、2人で三宮へでかけた帰り道のことだ。


黒田はその質問に一瞬視線を外した。


そして言いにくそうにモゴモゴと口の中でなにか言う。


「ちゃんと説明しなさいよ!」


さっき春菜の記憶の中に出てきた黒田のことを、皐月は厳しく叱責した。
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