京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
黒田はビクリと体をはねされて皐月を見つめた後「交通カードの履歴をたどってたんだ」と、観念したように言った。


そう言われて春菜は「あっ!」と声を上げる。


「交通カード?」


皐月が首をかしげているので春菜は頷いた。


「今私が使っている交通カードは、黒田さんからもらったものなんです。たしか遊園地に付く前にもらったんです、付き合って1年記念だからって」


それについては今思出した。


「どういうことですか? あなたは春菜さんと別れるつもりでいたのに、どうして記念になるようなものを?」


純一からの質問に黒田はまた黙り込んでしまった。


「そんなの簡単よ」


そう言ったのは皐月だった。


皐月は今にも噛み付いてしまいそうな勢いで黒田を睨みつけ、腕組みをしている。


「説明してくれ皐月」


「えぇ。交通カードは利用履歴を確認することができる。つまり、春菜ちゃんの行き先がわかるってこと。別れると決めていたのにどうしてそんなものを送ったのか? それはもうわかるわよね? 次の彼女とうまく行かなかったときに偶然を装って春菜ちゃんと再開するためよ」
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