京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
☆☆☆
その後、春菜がひとりで旅館の裏にある小道の掃除をしていると皐月がやってきた。
相変わらず美しく、ピンク色の着物がよく似合っている。
太陽に照らされた黒髪が艷やかに光っていて女性の春菜でもつい見とれて掃除する手を止めてしまった。
しかし今日の皐月はなんだか不機嫌な様子で、キュッと眉間にシワが寄り、唇は一文字に引き結ばれている。
「皐月さん、どうかしましたか?」
駆け寄って質問すると、皐月は右手に持っていた白い布巾をズイッと突き出してきた。
「これ、まいどまいどうちの旅館の屋根に飛ばしてくるのやめてくれないかなぁ?」
「え、あ、ごめんなさい!」
お客様用の浴衣や布団のシーツなどの洗濯物は業者に出しているが、布巾や雑巾の選択は旅館内で行っている。
普段はお客様の目につかない場所に干しているのだけれど、それが隣の吉田旅館まで飛ばされてしまったようだ。
「あら、あなたたしか記憶喪失の?」
「はい」
「あちゃー。怒っちゃってごめんね。何度注意しても直らないもんだからつい」
申し訳無さそうに頭をかく皐月に「いいえ、大丈夫です」と答えて布巾を受け取る。
「普段はヒロミちゃんや美絵ちゃんが洗濯してるらしいんだけど、あの子たちお客さんのいない場所ではいい加減というか、手抜きというかさぁ」
「はぁ……」
そんな愚痴を聞かされると思っていなかった春菜はたじたじになって答える。
ここで妙な返事をしたら松尾旅館と吉田旅館に亀裂が入ってしまうかもしれないという懸念もあった。
その後、春菜がひとりで旅館の裏にある小道の掃除をしていると皐月がやってきた。
相変わらず美しく、ピンク色の着物がよく似合っている。
太陽に照らされた黒髪が艷やかに光っていて女性の春菜でもつい見とれて掃除する手を止めてしまった。
しかし今日の皐月はなんだか不機嫌な様子で、キュッと眉間にシワが寄り、唇は一文字に引き結ばれている。
「皐月さん、どうかしましたか?」
駆け寄って質問すると、皐月は右手に持っていた白い布巾をズイッと突き出してきた。
「これ、まいどまいどうちの旅館の屋根に飛ばしてくるのやめてくれないかなぁ?」
「え、あ、ごめんなさい!」
お客様用の浴衣や布団のシーツなどの洗濯物は業者に出しているが、布巾や雑巾の選択は旅館内で行っている。
普段はお客様の目につかない場所に干しているのだけれど、それが隣の吉田旅館まで飛ばされてしまったようだ。
「あら、あなたたしか記憶喪失の?」
「はい」
「あちゃー。怒っちゃってごめんね。何度注意しても直らないもんだからつい」
申し訳無さそうに頭をかく皐月に「いいえ、大丈夫です」と答えて布巾を受け取る。
「普段はヒロミちゃんや美絵ちゃんが洗濯してるらしいんだけど、あの子たちお客さんのいない場所ではいい加減というか、手抜きというかさぁ」
「はぁ……」
そんな愚痴を聞かされると思っていなかった春菜はたじたじになって答える。
ここで妙な返事をしたら松尾旅館と吉田旅館に亀裂が入ってしまうかもしれないという懸念もあった。