京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。

どうにか旅館に戻ってきたときちょうど皐月が布巾を持って仁王立ちをして待っているところだった。


「ちょっとあんた！　いい加減あの２人を叱ってやってよ！」


どうやら今日も吉田旅館に布巾が飛んでいったようだけれど、今はそれを相手にしている場合ではない。


顔色の悪い春菜に気がついて皐月も険しい表情になった。


「ちょっと大丈夫？」


言いながら勝手口を開けてくれた。


「春菜さん、部屋に入りますよ」


一声かけたが春菜からの返事はない。


キツク目を閉じた春菜は苦しそうにあえぎ、額に汗を浮かばせている。


皐月が慌てて布団を敷き、その上に寝かされた。


純一と皐月がなにか言っているのが聞こえてくるけれど、その声はどんどん遠くなり、やがてなにも聞こえなくなってしまったのだった。