京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
「だけど会社から連絡が来ていないんです。無断で休めば連絡が来るはずですよね?」


「さぁ、そこまでは俺もちょっとわからないな」


黒田が首をかしげる。


他にも写真を見ていると、徐々に頭が痛くなってきて春菜はこめかみを押さえた。


「大丈夫ですか? 一気に色々な情報が入ってきたから、体調が悪くなったんじゃないですか?」


「大丈夫です」


このくらいのことで諦めていたら過去を取り戻すことはできない。


もう少しですべてを思い出せそうなのだ。


それでも、そうこうしている間に頭痛はひどくなっていき、手からスマホを離してしまった。


冷や汗が全身から吹き出して止めることができない。


そうとうひどい顔色をしていたのだろう純一が「一旦戻ろう」と立ち上がって春菜に手を貸しながらカフェを出た。


外は4月下旬とは思えない太陽が照りつけていたが、それでも春菜の体は凍えるほどに冷たかった。

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