10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「果歩ちゃんは、いつお休み?」
「私はカレンダー通りです」

 私が言うと麻子さんは目を輝かせる。

「じゃ土曜、買い物でも行かない?」
「え、あ、はぁ……」
「気になってたのよねー! 服もそうだし、髪型もメイクも。カットもしよう!」
「そんなに? どうして?」

「化けそうってこと。私の兄、美容師でスタイリストなの。もっとかわいくなるわよ! メイクは私がしてあげる」
「えぇ! そ、それはちょっと……」

 なんだか大げさな話になって思わず引いてしまいそうになる。

 私は昔からメイクはあまり得意ではなくて、最低限しかしていない。髪も昔からのなじみの美容室の女性に時々切ってもらうだけで、カラーもしていない。さらに、髪は普段は軽く束ねるだけでスタイリングもしてないのだ。

(やり方も分からないし、きっとしても似合わないだろうし……)

 そんなことを思っていると、麻子さんは、うーん、と考えて呟く。

「今よりもっとかわいくなったら、大和先生ももっと好きになってくれるかもね……?」
「い、行きます! なんでもやります!」

 二つ返事でOKしてしまった。
 昨日、他の人の目を見ない約束を破って大和先生を怒らせたし……もっと大和先生に好きになってほしいのは確かだから。

 勢いのいい返事を聞くと麻子さんは、
「ほんと、かわいいわね。路上で変な絵とか買っちゃダメよ」
と苦笑していた。
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