10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
「む? えっと、どういう意味ですか?」
「はぁ……なんか心配。イヤな時はちゃんとイヤって言うのよ?」
麻子さんはそんなことを言う。
「はい、大丈夫ですよ。そういえば病院長も同じこと言ってました」
「父親にまで」
麻子さんが悲壮な顔をした瞬間、「果歩……?」と聞きなれた声がした。
そちらに目を向けると、驚いている顔をした大和先生。
そうか、服装もメイクも髪型も違うから驚くよね。
かわいいと……そして、かわいいだけじゃなくて、女の子だって、好きだって……最後までしたいって……少しは思ってくれてるだろうか……?
思わず目をそらして、先生に言う。
「ど、どうですか?」
「すごくかわいいよ。かわいすぎて心配」
先生ははっきり言うと、私を引き寄せ、
「ちょっとこっちおいで? あ、寒いよね。これ、かけてて?」
と勝手に話を進めて、自分の上着を私にかける。
先生の服は大きくて、ひざ下まで隠れた。
「いや、寒くはないですけど……?」
「いいから」
有無を言わさない声で言われて、私は言葉に詰まる。
大和先生はお金をテーブルに置くと、
「今日はありがとうね、花菱さん。これ、コーヒー代と諸々。このお礼は今度するね」
と微笑んで私を連れて店を出た。
麻子さんは、その後、
「お礼参りのお礼じゃないでしょうね」
と呟いていたそうだ。