10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
病院長は微笑んでコーヒーカップを置くと、
「前に大和の事話した時……言わなかったことがあるんだ」
と言葉にした。
「え?」
「これは前も言ったかもしれないけど、私ががんだってわかった時、私は果歩ちゃんが心配でね。大和はさておき、果歩ちゃんは結婚してくれたら嬉しいなと思ってた」
「はい……」
「今までさんざん危ないものから遠ざけて目の届くところにおいて……自分勝手な考えなんだけどね」
病院長は自嘲気味に笑って言い、私は首を傾げる。その様子にまた病院長は苦笑する。
「そのとき、最初はね。もしかしたら、島原先生と果歩ちゃんが結婚するかもなって思ってたんだ」
「え? ど、どうしてですか……」
その言葉には驚いた。島原先生と私は付き合っていたような事実はない。
「島原先生がうちに来て、必死に仕事して、部長にまで昇進したのは、果歩ちゃんのためもあるんだろうなってなんとなくわかってたからね。特に彼には親族に医者もいないし、後ろ盾がない。そんな人間がこの世界で上に上がるのには、それこそ血を吐くような努力しなきゃいけないし、それも見ていて分かってた」
(私のため、って……それは考えすぎじゃないだろうか)
そう思っていると、病院長は続ける。
「でも私は大和の気持ちも……果歩ちゃんへの思いの強さも感じていたから、自分からどちらにも肩入れができなかったんだ」