10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 赤くなった顔を下に向けると、病院長の軽快な笑い声が室内に響いた。

「ははは……! そっか。うん、良かった」

 私はまだ赤い頬を隠して、そっと顔を上げて病院長を見る。病院長は散々笑ったあと、息を吐いて言葉を続けた。

「アイツの愛情はちょっと……いや、結構重いからね。諦め悪いし、捻くれてるし、粘着質だし。そんなとこ知られて、果歩ちゃんには『想定外だ』と思われてるんじゃないかと思ってたんだ。まぁ、振られたら振られたで、親としても、病院長してもかなりコワ……心配ではあったし」

「さっき、『かなりコワイ』って言いかけませんでした?」
「え? まさか」

 病院長は、はははと乾いた声で笑って、コーヒーを飲み干した。
 私は、なんだか納得いかないままコーヒーに口をつける。さわやかな酸味とコクが口の中いっぱいに広がった。
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