10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 何度目かわからないため息をついた時、

「果歩、なにしてるの」
「ひゃっ……!」

 聞き慣れた声に声を掛けられ、振り向かずに足が逃走する方向に向いた。
 そのとき、ひょい、とお腹から腕を回され、確保される。

「なんで逃げるんだ」
「いや、ただ、ちょっと心の準備というか……整理というか……!」
「なにそれ」

 呆れたような声に、私は絶望的な気分になる。
 泣きそうになって大和先生の方を見ると、「おいで」と先生は私を家の中に引き入れた。

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