10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 私がそのまま玄関に立ち尽くしていると、大和先生が、ほら、と促し私の靴まで脱がす。
 私はそれ以外は黙ったままの大和先生に不安になって、泣けてきた。

「ふぇ……お、怒ってますか?」
「何に?」
「今日の、こと……」

 私が言うと、大和先生は息を吐く。
 その仕草にすら、胸が大きく鳴り響いて、また泣いてしまう。

「果歩に怒るわけないでしょ。前も言ったけど、何かあれば怒るのも沈めるのも島原だよ」
「やっぱ沈めるのはやめたげてくださいー……」

(前は沈んでも浮かんできそうだからいいかと思ったけど、やっぱダメ。かわいそう)

 そう思って私が言うと、大和先生は不愉快そうに眉をピクリと動かして私を見た。
 その様子にまた、胸がドキリとする。
< 238 / 333 >

この作品をシェア

pagetop