10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 土曜の夜だけは、先生は夜勤もオンコールもなく過ごせる唯一の夜。
 よく考えてみたら、他の医師はここまでずっと仕事してるわけじゃない。やはり経営者側、という立場もあるのだと思うけど、それにしても、本当にずっと働いているようなものだ。

 その日は、二人でゆっくり夕食を取った後、ソファの上で大和先生に抱きしめられて、何度もキスを交わしていた。

「果歩? 俺といる時になにか他の考え事?」

 意地悪そうに笑って大和先生が言う。
 ただ、先生の手はさっきから、当たり前に服の中に差し入れられて、縦横無尽に動き回っていた。

「い、いえっ。ん……、や、大和さんのこと、考えてました」
「俺の事?」

 嬉しそうな声に、私は何度か頷いた。そしてなんとか口を開く。

「お医者さんって、こんなにみんな忙しいものなんですか? 大和さん、家にいられる時間もほとんどないし、一昨日も昨日も2時間くらいしかいられませんでしたよね。ちゃんと朝まで休めるのも、この土曜の夜だけで……」

 先生の不埒な手がぴたりと止まる。

「まぁ、俺はまだ若いし経験も積まないと……」

 そう言った先生の声は最後の方が小さくなった。私はキッと先生を見ると、はっきり言う。

「私は心配です。もっとちゃんと休んでほしいです」

 しかし先生は目をそらして、苦笑するだけだ。

(あ、誤魔化そうとしてる?)

 これは私にだってわかる。思わずむっとした。

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