10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~


 色とりどりの花、透き通るような羽を持って自由に飛ぶ蝶、まぶしく光る宝石、雨上がりの空にかかる虹……。人なら誰だって、きれいなものを愛でたいだろう。
 しかし、色鮮やかな昆虫ほど毒を持つように、綺麗なバラの花にとげがあるように……美しいものには『ウラ』もある。
 美しいものを近くで見ようと思ったら、その美しさに傷つけられてしまうことだってあるのだ。


「って思ってるのに……!」

(なんでいつも私なの……!)

 私は息を何度も吸って吐いて……そして、見上げたドアの前でため息をついた。


「失礼します。大和先生、少しよろしいですか?」

 ちょうど手術を終えて白衣に着替えてきた大和先生が、ちらりと私を見て、なに、とだけぶっきらぼうに返してきた。
 相変わらず愛想笑いすらしない、いつも不機嫌そうな表情が顔面にくっついている。特に手術のあとは怖さが倍増している。

 身長は180cmあり、運動もしてないのに体つきは逞しい。短めの黒髪に、まっすぐ通った鼻筋、そして整えてないのに凛々しく形のいい眉と、切れ長の目がバランスよくついている端正な顔は、間違いなくかっこいい。
 にこりと笑えば、きっと一瞬で女性患者も、男性患者すら虜になるだろう。だけど、彼はそれをしない。する必要すら感じていないように。
< 3 / 333 >

この作品をシェア

pagetop