10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
そんなことを考えながら病院長室の掃除をしていると、カンファレンスから戻った病院長が、入ってくるなりいつも以上にニコニコして私の手を取る。
「大和、すっごい機嫌よかったよー! おかげですっごいカンファレンスやりやすかったぁ。いっつも殺伐としたカンファレンスの雰囲気だからさぁ! ほんと果歩ちゃんのおかげだよ! ありがとう!」
私はその言葉に面食らう。
(なに? いったいどういう事……?)
私が混乱しているのに、病院長は幸せそうなため息を漏らす。
「はぁ……ほんと二人がそうなってくれて嬉しいよ。結婚式は盛大にあげようね! あ、新婚旅行のためのお休みも取れるように配慮するから、任せて!」
「あ、あの……病院長……」
「どこがいい? あ、どこでもいいからね! 和世もさぁ、二人に新婚旅行プレゼントするの楽しみにしてるんだよ」
病院長は私の話など遮って、どんどんとこんな話をしてくる。
そう、同棲まで話が進んでしまったのは、病院長と奥さんの和世さんのせいでもある。
病院長と和世さんはすごく優しいが、この件に関しては私の話を聞いてはくれない。嬉しさのあまり舞い上がっている状態なのだろうけど……。
そして、私はこんなに嬉しそうな病院長と和世さんを目の前で見ているからこそ、余計に言い出せなくなってしまったのだ……。
なんだかんだ、育ての親でもあり、とても恩のある二人である。
(そんな人たちが、大和先生とのことでこんなに喜んでくれてるんだ……)
完全に私が『やらかしてしまった』事案ではあったのだが、私は初めて親孝行できた気がしていた。
そのことで、嬉しさと、そのぶんの後ろめたさが心を埋め尽くしていた。