10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
廊下を歩いていると、ちょうど大和先生とすれ違う。
大和先生は私に気づくと、目を細めて私を見たと思ったら、クスリと笑って、「今日、早めに帰るから」とそんなことを耳打ちした。
その瞬間、『明日は唇にするからね? 覚えていて』という昨日の大和先生の声を思い出す。
(すっかり忘れていたけど、今日、キスされるんだった……!)
「ふぁいっ! わ、わかってますっ!」
裏返った声で返事をしてしまった私の頭を大和先生は軽く叩くと、そのまま笑って歩いていく。
(た、たしかに病院長の言うように、何故かすっごく機嫌いいですね⁉)
私はそう思って、大和先生の後姿を呆然と見ていた。
もちろんだが、私はこれまでキスもしたことはない。
少女漫画では大抵、お互いが好きだと分かった男女が、最後にキスをしていた。
考えてみたら、お互い好きでもない私と大和先生がそんなことしていいのだろうか……?