花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!
「フィデル。どうしてここに?」
思わずフィデルと呼びかけてしまい「あっ」とエミリーが呻くと、彼はふっと笑みを浮かべて話を続ける。
「そのフィデルに聞いたんだよ。エミリーが来てるって。いてもたってもいられなくなって飛んで来た。すぐに連絡できなくてすまなかった」
本物のフィデルとはつきさっき会ったばかりだというのにもう伝えてくれたのかとエミリーは目を丸くする。
彼は柔らかそうな白地のシャツに黒のパンツ姿と気軽な服装だ。
モースリーアカデミーに行く前に城に偶然立ち寄ったのだろうと、エミリーは推測する。
「遊びに連れ出したいのはやまやまなんだがこう見えて俺も忙しくてさ、今すぐってわけにはいかなそうだ」
「それなら仕方ないわね」
「デートは無理でも、別件できっとすぐに会えると思うから楽しみにしてて」
「別件?」
それは何と尋ねようとした時、「エミリー?」とリタが呼びかけてきた。
顔を向けると不思議そうな顔でこちらをみている。
美麗な彼は木の幹を背にし、ちょうどリタから見えない位置にいるため、リタにはエミリーが木のそばでひとりぽつんと立っているように見えているだろう。