うちの金魚/龍に憧れた金魚
うちの金魚
うちの金魚は、昔に俺が縁日で金魚すくいをしてもらってきたやつ。
小さな金魚だった。

父さんが買ってくれた水槽と水草、母さんが買ってくれた餌や小石をセットして住まわせる。


毎朝早く起きて餌やり。

「餌、もうやったろ?」

それでも口をパクパクして餌をねだるから可愛くて、一日2回以外の別の時間に、母さんに内緒でほんの少し餌をやる。


日曜には水槽を洗ってきれいにする。

「俺の顔、よく見えるようになっただろ?」

なんだか金魚が喜んでいる気がした。



家族で出かけるときは、行くギリギリに水槽の隅4箇所に餌を浮かべ、金魚に説明したこともあった。

「キン、よく聞いて!これは明日の分、あとこれは……」

それを聞いた母さんが苦笑いして俺に言う。

「金魚は餌がなかったら水辺のプランクトンを食べるから大丈夫だよ。」

それでも俺は何度もそうしていた。
何年もそうして、俺はかなり可愛がっていた。



6年目、

「水槽が小さくなったな…。片目、見えないのかもな、よく水槽にぶつかるようになった。」

父さんがそう言った。

「……。」

かなり大きくなった金魚、片目が見えなくなったらしい。

うちの玄関は狭い。他の部屋には置けない。
動き回るから金魚の長さを測れたことはないからわからないけど、金魚は小さい水槽にいさせるしかなかった。

かわいそうだと思った。

「そっちはぶつかるだろ、こっちに来なよ…」

俺はよくぶつかる方と反対のところから話しかけるようにした。
餌をやるときもそっちから。ずっと毎日世話を続けた。

少しでも長生きしてほしい。俺にとっては家族の一員だから。



「あ…れ……」

7年経ったある日、金魚は水槽に浮いていた。

「…キン……」

俺はそう言ったきり、立ち尽くした。
言葉なんて出て来ない。
いつかはこんな日が来ることはわかっていた。
でも、あまりにも突然で……


夕方、父さんと庭に埋めた。
ガーゼに包まれた金魚は、軽いようでなんだか重かった。

「…ばあちゃんが言ってたな、鯉は龍になる伝説があるって…。じゃあ、金魚はどうなるんだろうな…」

俺はポツリと、誰に言うわけでもない感じでつぶやいた。


夕方の空には細長い雲が浮いていた。
俺はなんだかそれが、うちの金魚が龍になった姿のような気がした。
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