白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「僕に言って下されば時間のある時にお付き合いします」

 ロゼリエッタは目を瞠った。

 これではまるで、客人のような扱いではないか。もちろん咎人と決められて手酷い扱いを受けたいわけではない。けれど連れて来られた経緯からは信じられないほどの好待遇だった。

「よろしいのですか?」

「週に一度くらいなら構いません」

 さらなる願いが湧き出て来る。

 言ったら嫌われるかもしれない。

 でも、そんなことは今さらだと思い直して躊躇(ためら)いがちに口を開いた。

「それは、あの、一日だけなら毎週でも?」

「ロゼリエッタ嬢がそのように望まれるのでしたら」

 望むことが叶えられる。

 ささやかな事実は、けれどロゼリエッタの心に大きな光をもたらした。もっと満たされたくて、当然のように次の願いも叶えて欲しくなる。そんな自分が浅ましいと恥じる気持ちがないわけではなかったけれど、止められなかった。

「騎士様のお名前をお教えいただくことは叶わないのでしょうか」

「シェイドと。そうお呼び下さい」

「分かりました」

 ロゼリエッタは頷いた。そうして、精一杯の勇気を振り絞って言葉を紡ぐ。

「――シェイド様」

「はい」

 名前を呼び、返事がある。

 目の前の人物がクロードと分かっているのにクロードと呼べない。クロードの名でなければ呼ぶことを許してもらえる。相反する二つの感情が胸の中を強くせめぎあった。


 嬉しさと寂しさ、どちらから来るものなのか。あるいは両方を含んでいるのか。分からないままに涙がこぼれそうになる。

 騎士――シェイドは重たげなドアを簡単に開き、ロゼリエッタを促した。

「移動でお疲れでしょうから部屋にご案内致します」

 ゆったりと余裕のある内部は、外から見るより遥かに広々として見える。品良く落ち着いた色合いでまとめられ、通路に時折置かれた調度品も派手さはないけれど手が込んでいた。

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