白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
第四章

20. 最初の晩餐

 ロゼリエッタが目を覚ました時、部屋の中は暗闇に包まれていた。

 眠っている間に誰も部屋には入らなかったらしい。安堵すると同時に、知らない場所で闇に一人で閉ざされていることに不安な気持ちも覚えてしまう。


 静かにベッドを出て、心なしか冷える身体を両手で抱きしめた。それから手の感覚だけを頼りにベッドの周辺をゆっくりと探る。指先にひんやりとした固い何かが触れ、チリン、と涼やかな音がかすかに鳴った。

(呼び鈴……かしら)

 細長く伸びた鈴の上部をおそるおそる握り、今度は意識しながらも控え目に鳴らしてみる。しばらくしてドアがノックされた。

「シェイド様から、こちらでのロゼリエッタ様のお世話を申しつかったオードリー・フラインと申します。ドアを開けてもよろしいでしょうか」

「ど、どうぞ」

 シェイドの名を出したということは、オードリーと名乗った彼女は信用しても良い相手なのだろう。この状況ではどうせ、朝になるまで何もできない。ロゼリエッタは無理やりにでも覚悟を決めるしかなかった。


 失礼します、そう断りを入れて一人の女性がドアを開けた。左手には移動用の簡易的な燭台を掲げている。お仕着せらしきエプロンワンピースを纏う姿を、淡い光が照らし出した。

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