白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

2. 婚約者の想い人

 夜会の場となる大広間に足を踏み入れるとクロードの姿を見た人々から感嘆の溜め息が沸き起こり、そして落胆の吐息に変わる。

 普段は一人で参列している彼が、今日はロゼリエッタを連れているせいだろう。

 ましてや今日は王女主催の夜会である為か、年若い招待客が多い。半年前の夜会よりもあからさまに無遠慮な視線が自分に集まるのを感じ、ロゼリエッタは今すぐ帰りたい気持ちになった。


 顔を寄せ合った令嬢たちがひそひそと囁く声には、クロードの名が何度も出て来る。

 そこにロゼリエッタの名が混じらないのは良いことなのか、悪いことなのか。突き刺さる視線と、絶妙に聞こえよがしな大きさの声から察するに後者なのだろう。――察したくもないことだけれど。

「おいで、ロゼ。人がたくさんいるから手を繋いで歩こう」

 ロゼリエッタは全く予想もしていなかった申し出に、思わずクロードの顔と差しのべられた手とを見比べた。クロードのエスコートで夜会に出た回数自体少ないけれど、こんなことは初めての経験だ。

 子供扱いされているのか淑女扱いされているのか分からない。助けを求めるよう後ろに控えるアイリを振り返ると、自分のことのように嬉しそうな顔で強く頷かれた。手を取った方が良い。そう言っているようだ。

「どうしたの? 僕と手は繋ぎたくない?」

「そ、そんなことはないです」

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