白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 初めて会った日に一緒に遊んだカードゲームも、ロゼリエッタが興味を持ってくれたから隣国から取り寄せたものを贈ったりもした。

 自然と母の言葉を思い出す。


 大切な人と、二人で。


 一方で、自らが課した戒めも胸をよぎる。


 人を好きになってはいけない。


 だけど、彼女と二人、静かにひっそりと暮らして行くのも良いかもしれない。いや、そうして生きたいと願ってしまった。

 隣国の王位継承権はグランハイム公爵によりとっくに放棄されている。


 人を好きになってもいい。


 本当に、いいのだろうか。




「ロゼ――突然の話で申し訳ないけど、僕との婚約を解消して欲しい」

 ずっと二人で生きて行きたいと思った。

 だが、やっぱりクロード・グランハイムは人を好きになってはいけなかったのだ。


 せめてマーガスなり別の誰かなりが、正式に隣国の現国王から王位を譲渡されるまで待つべきだったのだろう。

 王位継承権がクロードに行使されることもなく、そういう権利も過去にはあったのだと、ただの肩書きになるまでおとなしくしているべきだったのだ。


 でも、いつになるとも知れない出来事を待てるような余裕などなかった。その間に彼女はきっとクロードではない誰かと婚約してしまう。年頃を迎え、どんどん綺麗な淑女になって行く彼女に、婚約はできないけれど待っていて欲しいなんて言えるはずもない。


 その結果、さらにひどい仕打ちをした。

 王位継承を巡る醜い権力争いに利用されるのはクロード本人ではなく、クロードがいちばん大切にする相手なのだと気がついていたら、こんなことにはならなかったのだろう。

 悲しそうな表情を浮かべるロゼリエッタを優しく抱きしめ、泣かせてあげることもできない。それどころか傷つけるだけ傷つけて立ち去った。最低な行動だ。

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